くるま素材
マガジン vol.13

2025/05/19

アクリル樹脂、及びその原料(PMMA/MMA)のグローバルトップサプライヤーとして 環境負荷低減を実現し、社会的責任を果たす

アクリル樹脂
MMA
PMMA
サステナブルMMA
サステナブルPMMA
アクリペット™
アクリプレン™
アクリライト™
エスカ™
vol13_00
アクリル樹脂製品は、透明性・耐衝撃性・耐候性に優れ、自動車部品、光学部品や建材を中心に、さまざまな用途で需要が拡大しています。一方で需要拡大にともない生産量が増大する中、使用済みアクリル樹脂のリサイクルや製造工程におけるCO₂排出量の削減など、環境負荷低減への取り組みの重要性が高まっています。本記事では、代表的なアクリル樹脂製品であるPMMAとその原料であるMMAで世界トップクラスのシェアを誇る三菱ケミカルグループ(以下、MCG)のケミカルリサイクルの実践や製造工程でのCO₂排出量削減について紹介。独自の素材技術で環境負荷低減製品の開発とその量産化を両立させる取組みを解説します。

透明性・耐衝撃性・耐候性に優れさまざまな用途で需要が拡大するアクリル樹脂製品

はじめに、アクリル樹脂とはどういった素材なのか、主な特長や用途を解説するとともに、世界の市場動向なども詳しくご紹介しましょう。

アクリル樹脂製品とは

アクリル樹脂とは、メタクリル酸メチルを重合(低分子の化合物が連なって・連続して結合する化学反応)して作られるプラスチック素材の一つです。以下のような特長があります。

  • 透明性:光透過率が93%とプラスチックで最も高く、ガラスよりも透明性が高い。

  • 耐候性:紫外線によるダメージも受けにくく、屋外使用に向いている

  • 耐薬品性:酸・アルカリなどの薬品に強い

  • 耐衝撃性:ガラスに比べて良好な耐衝撃性を持ち、割れても飛散しにくく安全性にも優れている

透明性が高い素材といえばガラスを思い浮かべる方も多いと思いますが、アクリル樹脂の光透過率はガラスよりも高く、さらに樹脂素材のためガラスに比べて軽量です。アクリル樹脂にはさまざまな種類があり、中でも代表的なものがメタクリル酸メチル(MMA)を重合して作られるPMMAとよばれる種類です。

PMMAはアクリルガラスともよばれ、割れやすいガラスの代替素材として屋内はもちろんのこと屋外でもさまざまな用途に活用されています。

【アクリル樹脂(PMMA)の主な用途】
  • 自動車のテールランプレンズ(ランプカバー)

  • 自動車の外板(無塗装で美しい光沢を放つピアノブラックパーツなど)

  • 光学レンズ・導光体

  • 看板

  • 水族館の水槽

  • 塗料

  • 建材

なお、世界的な調査会社によると、世界のアクリル樹脂市場規模は 2023年の223億6,000万ドルから2024年には234億6,000万ドルに達しています。今後、2032年を目処に338億4,000万ドルにまで成長すると予測され、順調な需要拡大が期待されています。 

MCGはMMA/PMMAのトップサプライヤー

アクリル樹脂の市場拡大の背景には、自動車部品、光学レンズや建材など、透明性や耐候性、加工性、強度などアクリル樹脂の特徴が活かせる用途への需要拡大があります。例えば、自動車のボディには美しい光沢を維持するためにコーティング加工が欠かせませんが、アクリル樹脂は透明性が高く、さまざまな色に調色できるため、着色剤を配合するだけで光沢のある表面を作ることができます。塗装工程が不要となることで、その工程で発生するCO₂排出量削減にも貢献します。

また、アクリル樹脂は透明性が高く着色性に優れると共に、ガラス素材に比べて加工性に優れており、コストも抑えられることから、自動車の光学レンズ、導光体、ランプカバーなどの部品はもちろん、自動車部品以外にも幅広い用途に活用されるようになりました。

MCGはMMAおよびPMMAのトップサプライヤーであり、世界トップクラスのシェアを誇るリーディングカンパニーです。

vol13_01
アクリル装飾品
vol13_02
CO₂排出

リサイクルや製造工程でのCO₂排出量削減など需要拡大にともない環境負荷低減が課題に

このように用途が広がり、市場規模も堅調に拡大しているMMAおよびPMMAですが、需要拡大にともない新たな課題も浮き彫りになってきています。それが、使用済みPMMAのリサイクルやMMA/PMMAの製造工程でのCO₂排出量の削減など、原料調達、製造から廃棄までの製品ライフサイクルにおける環境負荷の低減です。

環境先進国とされる欧州でもPMMAに限らず使用済みのプラスチック(樹脂材料)については埋め立てが中心で、本格的な資源循環への取り組みは進んでいるとはいえない状況です。国内でも、これまではサーマルリサイクル(焼却処分の際に生じる熱エネルギーを再利用する方法)が中心で、根本的な資源循環やCO₂排出量削減にはいたっていないのが実情でした。

こうした中、MCGでは、MMA/PMMAのトップサプライヤーとしての社会的責任を果たすべく、さまざまな取り組みを実践し、環境負荷低減に取り組んでいます。

「三つの生産技術」でMMAを製造できる世界唯一のメーカー

世界で唯一3つのMMA製造法(以下、新エチレン法、ACH法、C4直酸法)で市場展開するMCGは、いまあらたに資源循環型の素材である、「サステナブルMMA及びPMMA」の開発を進めています。

●サステナブルMMA

MCGでは、以下の製法によるMMAを「サステナブルMMA」と位置付け、その製造技術・研究開発に取り組んでいます。

1.  使用済みアクリルからのケミカルリサイクルへ

既存の3つの製造技術に加えて、使用済アクリル樹脂(PMMA)を原料とする「ケミカルリサイクル」によるMMA製造技術を開発しました。ケミカルリサイクルによるMMAは、化石由来原料によるこれまでのMMAと変わらぬ品質規格・管理のもとで市場展開され、資源循環に大きく寄与する素材として期待されています。

2. 化石由来原料から「植物由来原料」へ

既存の3つの製造法で投入されるそれぞれの原料を、現在のナフサ(石油)や天然ガスなどの化石由来原料から、植物由来原料に置き換えるMMAの製造技術を開発しました。また、発酵法により直接MMAを製造する新規バイオプロセスの研究開発も進めています。

3. 「二酸化炭素」の利用へ

将来、大気や工場排ガスなどから回収されたCO₂を利用した基礎化学品の製造技術が確立された場合には、それらを原料としたMMAの製造も期待されます。CO₂の利用によって、ライフサイクル全体としてより低資源・低エネルギーによるMMAの供給をめざします。

●サステナブルPMMA

サステナブルMMAを原料として作られるアクリル樹脂が「サステナブルPMMA」です。

・ケミカルリサイクルPMMA

使用済みアクリル樹脂(PMMA)のケミカルリサイクルによるMMAを原料として、マテリアルリサイクルでは困難な、リサイクル前と同等の透明性、機械特性を持つケミカルリサイクルPMMAを繰り返し作り出すことができます。光学レンズや導光体など、光学特性の要求が厳しい用途を含め、従来のアクリル樹脂の用途にこれまでと同様に使用することができます。

さらに、ケミカルリサイクルPMMAは、従来の化石由来原料によるMMAを原料としたものと比較した場合、製品ライフサイクル全体におけるCO₂排出量をおよそ50%削減※)できることも期待されています。

※)化石由来原料によるPMMAを焼却した場合と、廃PMMAを回収しケミカルリサイクルPMMAを製造した場合を比較

以上のように、資源循環、CO₂循環された新たなMMA/PMMAを、我々は「サステナブルMMA/PMMA」と位置付け、有限な資源の使用量削減、二酸化炭素の排出量削減を通し、環境負荷低減への貢献により社会的責任を果たします。

vol13_03

今後はサステナブルMMA/PMMAの量産化へ

MCGでは、サステナブルMMA/PMMAの量産化に向けて、2021年からケミカルリサイクルのパイロットプラントを稼働させ、マイクロ波化学株式会社および本田技研工業株式会社との協業で実証実験を完了しています。

ケミカルリサイクルの具体的なプロセスとして、マイクロ波を利用した熱分解の手法を採用。マイクロ波プロセスでは再エネ由来の電力を利用できるため製造時の二酸化炭素の発生による環境負荷を下げられるほか、マイクロ波によりアクリル樹脂を直接、選択的に加熱できるためエネルギー効率に優れているという特長もあります。

2023年度には量産化に向けた必要なデータの取得が終了し、これ以外にも多様な実証試験をすでに実施しています。

さらに、サステナブルMMA/PMMAの本格的な量産化に向けて、数千トン規模の処理が可能な商業設備の建設に向け取り組んでいます。このように、MCGではサステナブルMMA/PMMAの量産化と環境負荷の低減を両立するため、複数のパートナー企業との協業により、具体的な取り組みを進めています。

優れた品質と環境負荷低減を両立したMCGのアクリル樹脂製品群

MCGではケミカルリサイクル技術を応用し、環境負荷を低減しながらさまざまなアクリル樹脂素材・製品を開発しています。世界トップクラスの素材技術によって開発された高品質のアクリル樹脂製品群とその特長、主な用途をご紹介しましょう。

自動車の内外装材としての利用が広がる製品群

アクリル樹脂の代表的な用途として挙げられるのが自動車の内装・外装材です。

◆アクリル樹脂成形材料 アクリペット™

アクリル樹脂はプラスチック素材のなかでも最高レベルの透明度を有するPMMAとして、「プラスチックの女王」の異名を持つ機能素材です。MCGは日本で初めてアクリルの量産化に成功し、「アクリペット™」という商標で世界トップのシェアを維持し続けてきました。

アクリペット™は、耐候性、耐薬品性、硬度、外観などの優れた特性を活かし、自動車や建材、家電、光学製品のほか、身近にあるさまざまな製品に幅広く使用されています。特に自動車には欠かすことのできない素材であり、例えばピラーやフロントグリル、ヘッドライト用レンズ、テールランプ、リアガーニッシュなどの外装のほか、内装ではメーターや照明、カーナビ用のディスプレイなどにも広く採用されています。

◆アクリル樹脂フィルム アクリプレン™

アクリプレン™は、独自のポリマー設計技術と薄膜成形技術によって開発されたアクリル樹脂(PMMA)フィルムです。

光透過率93%という極めて高い透明度と、屋外での使用にも耐えられる優れた耐候性を有し、さらに薄型のフィルムにすることで真空成形やラッピングといった加工の自由度も高めることにも成功しています。

1975年の販売開始以来、アクリプレン™は世界中のさまざまなメーカーで採用され、塗装代替用の素材としても広く普及しています。特に自動車の内装部材として需要が高く、用途に応じてさまざまな厚み・幅のラインナップが用意されているほか、インモールド成形やインサート成形、トリミング性に優れた硬質タイプのグレードもあります。

さまざまな用途で利用されるPMMA製品群

自動車以外の用途で使用されることが多いPMMAもご紹介しましょう。

◆アクリル樹脂シート アクリライト™

アクリライト™は幅広い用途に応用可能なシート状のアクリル樹脂です。耐候性、着色性、優れており、ガラスよりも透明度が高く加工もしやすいという特徴があります。

その特徴を活かし、アクリライト™は店舗の看板や大型ディスプレイ、液晶パネルの保護板、照明向け導光板、アクリルグッズなど多様な用途に使用されています。MCGのアクリライト™は他社にない難燃グレードや、優れた紫外線吸収グレードなど多様なラインナップがあり、用途に応じて最適な製品を選択できます。

◆プラスチック光ファイバー エスカ™

アクリル樹脂は極めて光透過率が高いことから、光ファイバーケーブルの素材としても最適です。

エスカ™は、情報通信インフラや車載ネットワーク、ファクトリーオートメーションの構築に不可欠なプラスチック光ファイバーです。通常の石英系素材の光ファイバーに比べて軽量・柔軟で、加工性にも優れている特長があり、インフラ構築やネットワーク工事の負担軽減につながります。

vol13_04
アクリペット™                           アクリプレン™
vol13_05
アクリライト™
vol13_06
エスカ™

製品ライフサイクル全般の環境負荷低減に貢献しトップサプライヤーとして社会的責任を果たす

アクリル樹脂は透明度が極めて高く耐衝撃性にも優れているため、自動車部品をはじめ、ガラスの代替材料としてさまざまな製品に利用されています。

一方で、アクリル樹脂およびその原料MMAの製造過程ではCO₂排出量の削減が求められるなど、効率的な量産体制の確立と環境負荷低減の両立が重視されています。MCGはMMA/PMMAの世界トップクラスのサプライヤーとして、社会的責任を果たすべく使用済みPMMAの回収、およびケミカルリサイクルの技術をはじめとして、サステナブルMMA/PMMAの原料調達から、製造工程でのCO₂排出量の低減に至るまで、製品ライフサイクル全般での環境負荷低減に貢献する具体的な取り組みを今後も継続してまいります。

CONTACT
お問い合わせ

製品についてや、取り組みについてなど
何でもお気軽にご相談ください。
私たちが誠実に対応します。