自動運転実用化の鍵を握る「LiDAR」とは
LiDAR(ライダー)とは「Light Detection and Ranging」の略称で、日本語では「光による検知と測距」と直訳されます。自動運転の実現に向けて注目されている技術のひとつですが、LiDARそのものは決して最新テクノロジーではなく、これまでさまざまな分野において活用されてきました。光を使った検知と測距と聞いても、具体的なイメージが浮かばないかもしれません。LiDARの特徴をもう少し詳しく掘り下げながら解説します。
航空測量、地図作成、スポーツなど幅広い用途で利用されてきたLiDAR
LiDARで用いられる「光」とは、レーザービームです。対象物にレーザー光を照射し、反射光によって対象物までの距離や形などを正確に計測する技術がLiDARです。
LiDARは、すでに航空測量による地形図の作成のほか、スポーツの分野ではゴルフの距離測定や体操競技での採点などに利用されています。実際に2021年の東京オリンピックでは、体操競技で競技中の選手にレーザー光を照射し、3D骨格座標をもとに水平状態などを測定し、技の正確性を採点するのに活用されました。
また、LiDARはiPhoneやiPadに採用されていることでも知られています。カメラをかざすだけで対象物の長さを計測することで、暗がりでも被写体をきれいに撮影できるのです。
LiDARは自動運転の実現にどう貢献するのか?
さまざまな分野で実用化されているLiDARですが、冒頭でも紹介した通り、近年では自動運転の実用化に向けたキーテクノロジーとしても注目されています。
車の周囲の状況検知にはLiDARが不可欠
自動運転車がスムーズに走行するためには、GPSデータから現在地を割り出し、目的地までのルートを設定する必要があります。このような機能は従来のカーナビにも実装されていますが、自動運転車の場合は目的地までのルート上で、信号や交通標識、障害物などを識別しながら状況に応じた自動走行が求められます。
そこで、自動運転車の周囲をつねに監視し、交通標識や障害物のほか、前方や後方の車両、歩行者などを検知するためにLiDARが不可欠となるのです。
例えば、車両の四隅にLiDARセンサーを搭載することで、前後左右の状況を確認できるようになります。誤作動を防ぐためにLiDARのセンサー部をハウジングで覆い、レーザーを発信するエミッターと受信するレシーバーをそれぞれ搭載します。
現在主流の「ミリ波レーダー+カメラ」とLiDARの違い
検知や測距の技術としては、LiDAR以外にも「ミリ波レーダー」があります。これはレーザー光ではなく、30〜300GHzの周波数帯の電波を用いて対象物の距離を測る技術です。ミリ波レーダーは、現在多くの車に搭載されているADASに使用されており、車間距離や障害物の検知に欠かせない技術となっています。
しかし、ミリ波レーダーで計測できるのは対象物との距離のみであり、対象物の形状や大きさを立体的に捉えることは難しいという弱点があります。それに対し、LiDARは対象物との距離だけでなく、形状や大きさまで高精度に検知することができるのです。
ミリ波レーダーで計測できるのは対象物との距離のみであることから、現在、多くの車に搭載されている自動ブレーキや車線維持支援などの先進運転支援システムには、ミリ波レーダーに加えて、より作動距離が短い超音波センサーやカメラを併用して対象物を認識しています。
ただし、これらのセンサー類とカメラの組み合わせで実現できるのは「自動運転レベル2」に該当する部分的に運転の一部が自動化された車両までで、自動運転レベル3以上の自動運転車の実現は難しいとされています。ミリ波レーダーとカメラの組み合わせであっても、例えば、暗い夜道ではカメラが対象物を正確に捉えきれなかったり、逆光の環境下では検出精度が落ちたりするといった課題があるからです。
それに対してLiDARには、どのような優位性があるのでしょう。
ミリ波レーダー+カメラの弱点を克服したLiDAR
LiDARは他車・歩行者・建物・障害物などの距離はもちろん、形状や位置関係までを三次元で把握できる特性をもっています。物理的にカメラで撮影する仕組みではないため、暗かったり、明るすぎたりしてもLiDARであれば対象物の検知に影響を及ぼす心配がありません。
自動運転レベル3以上の実用化に向けては、日中から夜間まであらゆる場面を想定し、確実に対象物を検知できる仕組みが求められます。また自動運転には不可欠な3次元マップに対応し、迅速な情報処理が必要になります。そのため、LiDARは自動運転を実現するために欠かせないキーテクノロジーとして重要視されているのです。
LiDARの信頼性向上に欠かせない三菱ケミカルの高機能素材
自動運転の実用化に向けては、LiDARの検知エラーや誤作動をなくし安全性を極限まで高める必要があります。LiDARの感度を高め、より高精度な検知を可能にするために、三菱ケミカルの反射防止フィルムをはじめとした、さまざまな高機能素材が貢献しています。
LiDARの高精度な検知を実現する高機能な4素材
1. LiDARの筐体の寸法精度高めるPBT樹脂「 ノバデュラン™ LXシリーズ 」
ノバデュラン
また、ノバデュラン
2. センサーの感知精度をさらに高める光学窓向け「 波長選択樹脂 」(PC樹脂、PMMA樹脂)
LiDARに用いられる光は、人に対しての安全性や効率などを考慮して選択的な最適化がなされています。波長選択PC樹脂は、LiDARセンサーにとってノイズとなる可視光線波長などをカットし、レーザーの波長である赤外線のみを透過させる素材です。
波長選択PC樹脂をLiDAR光学窓やカバー部分に採用することで、センサー感度の精度をさらに向上できるでしょう。
3. 感度向上に欠かせない反射防止フィルム「 モスマイト™ 」
モスマイト
内部構造の曇り止め機能にも対応しており、これまでカーナビやメーターなどへの採用実績が豊富です。LiDARの光学窓(カバーガラス)にこの素材を採用することで、レーザーの誤検知を防ぎ安全性を高められると期待されます。
4. 感度を高める反射防止コーティング メソポーラスシリカ塗工液「 メソプラス™ 」
メソプラス
反射防止フィルムのモスマイト
5.その他
なお、三菱ケミカルではLiDARセンサーユニット向けの素材だけでなく、現在のADASのキーテクノロジーであるミリ波レーザー向けの素材として「ミリ波透過ミラー調材料」や「低誘電材料」、「電磁波吸収体材料」も開発・提供しています。
高機能素材の開発を通じて、より安全な自動運転の実用化に貢献
自動運転レベル3以上ではドライバーが運転するのではなく、システムが自動的に運転を担うことが想定されています。その実用化に向けては、従来のセンサー類とカメラによる検知・測距の弱点を克服するLiDARが鍵を握ります。
LiDARの信頼性をさらに高めるためには、光の反射や屈折、ノイズなどによる影響を限りなくゼロにしなくてはならず、そのためにも高性能な素材が求められます。
三菱ケミカルでは、LiDARの信頼性をさらに向上させる高機能素材を開発・提供を通じて、より安全な自動運転の実用化に貢献していきます。