くるま素材
マガジン vol.11

2024/05/28

EV、自動運転車のNVH対策を革新する三菱ケミカルの素材技術

NVH
EV
自動運転車
“きしみ音”を低減
音響メタマテリアル遮音・制振シート
軽量強化熱可塑性プラスチック
新規アセチル系ポリマー
積層用熱可塑性エラストマーフィルム
NVH_KV
クルマの快適性や居住性を左右する指標のひとつに「NVH」があります。走行中に運転者が感じる騒音や振動のことで、これまでも自動車メーカー各社がその対策に取り組んできましたが、EVへのシフトや自動運転車の実用化が急速に進展する中、改めてNVHが注目されています。これまでのガソリンエンジン車とは駆動系などの構造が異なるEVや自動運転車で求められる新たなNVH対策と、それを支える三菱ケミカルグループ(以下、MCG)の素材技術について解説します。

「NVH」とは?その意味と自動車開発において重要な理由

はじめに、NVHとは何か、言葉の意味や概要、その重要性について詳しく解説しましょう。

自動車の居住性・快適性を左右するNVH

NVHとは「Noise(騒音)・Vibration(振動)・Harshness(ハーシュネス)」の頭文字をとった略称であり、自動車の居住性や快適性を左右する重要な指標です。それぞれの項目で、具体的にどういったものがNVHとして考えられるのでしょうか。

Noise(騒音):エンジン音、ロードノイズ、風切り音など外部からの音

Vibration(振動):エンジン駆動中に伝わってくる振動、走行中に発生する駆動部(ドライブシャフト、タイヤ、ホイールなど)からの振動

Harshness(ハーシュネス):悪路やわずかな段差、舗装道路のつなぎ目などを走ったときに生じる突き上げ、それによりドライバーを含む乗員に不快感を与える振動や騒音など

騒音や振動、突き上げ感といった項目は人によっても感じ方が異なります。そこで、騒音測定装置や振動測定装置、あるいはシミュレーションシステムなどを活用しNVHを数値化しています。

自動車の開発においてNVHはなぜ重要視されるのか?

自動車の開発・製造にあたってNVHが重要な指標のひとつとされているのは、居住性や快適性の視点からだけではありません。次に示すような理由が考えられます。

●ブランド価値の向上

ひとつめの理由として挙げられるのは、自動車メーカーのブランド価値を左右するためです。

例えば、外観が魅力的だったり高級感があったりしても、騒音や振動、突き上げ感などが激しい自動車は安っぽく感じてしまうものです。特に高級車は、乗り心地や静粛性が自動車メーカーとしてのブランド価値を左右するといっても過言ではありません。

●顧客満足度の向上

もうひとつの理由として挙げられるのは、NVHが顧客満足度に直結するという点です。

豪華な装飾や洗練されたデザインによって外観を磨き上げたとしても、実際に自動車を運転したり助手席に座ったりしたときに騒音や振動、不快な乗り心地を感じてしまうと、ユーザーは期待を裏切られたと感じ顧客満足度の低下を招いてしまいます。

反対に、上位モデルに位置する高級車でなくとも、NVHに優れた自動車は快適な乗り心地を提供し、ユーザーの期待値を超えることで高い顧客満足度を獲得できるでしょう。

●安全性の向上

さらに、安全性や運転体験の向上という点でもNVHは重要です。騒音や振動が大きい自動車は運転する時間が長くなるほど疲労やストレスを感じる傾向があり、運転時の集中力も低下し、事故につながるおそれもあるでしょう。

一方、NVHに優れた自動車は長時間のドライブでも疲れにくく、運転に集中できるため安全性が高まると考えられます。

「NVH」のおもな発生原因

自動車に乗っていると、多少の騒音や振動、突き上げ感は発生するものであると多くの人は認識しています。とはいえ、より居住性や快適性に優れた自動車を開発するためには、これらが発生する原因やメカニズムを知っておくことが重要です。

自動車におけるNVHの発生源は、主に「空力的な要因」と「機械的な要因」、そして「電気的な要因」の3つに分けて考えることができます。

1. 空力的な要因

空力とは空気力学のことであり、空気・気体の流れや運動によって物体に与える影響を指します。走行時に車体に当たる風・空気や、カーエアコンの装置に用いられているファン(HVACファン)などが空力的なNVHに該当します。

自動車の設計・開発にあたって空力は無視できない重要な要素であり、走行中の静寂性や振動に大きな影響を与えます。

2. 機械的な要因

ブレーキの摩擦やエンジン駆動時の音・振動、タイヤと路面の摩擦などが機械的なNVHに該当します。自動車が走行するうえで、ブレーキやエンジン、タイヤなどから生じる機械的な騒音や振動は避けられないものですが、発生源やメカニズムを明確に理解できれば有効なNVH対策を施すことができます。

3. 電気的な要因

何らかの異常が発生したときに運転者へ知らせる警告音や、EV(電気自動車)に不可欠なモーターやインバーター、電池システムの作動音や振動などが電気的なNVHに該当します。

EVはガソリン車に比べて駆動時の音が静かで振動も少ないという特性がありますが、直流から交流へと変換するインバーターからは高周波が発せられるため、独特のモーター音が生じます。ガソリン車の音に慣れた人にとっては、インバーターから発せられる独特のモーター音が不快に感じるケースも少なくありません。

自動車のEV化にともない新たに生まれるNVHとは?

これまでのNVHは、ガソリン車から発せられる騒音や振動などに重点を置かれることが多くありました。しかし、昨今では世界の自動車メーカーにおいてEVの開発競争が激化しており、ガソリン車とは異なる「EVならではのNVH」が求められるようになりました。

従来の内燃機関(ガソリンエンジン)では隠されていたNVHともいえますが、EVの開発では具体的にどういった対策が求められるのでしょうか。

EVの駆動系
EVの駆動系

駆動系の電動化によって求められる新しいNVH対策とは

従来の自動車とEVの最大の違いは、駆動系がガソリンエンジンからモーターへと置き換わることです。また、これにともない自動車に必要なユニットやパーツのレイアウトも必然的に変化します。具体的には、モーター駆動になることで駆動系がガソリンエンジンに比べて大幅に小型化され、トランスミッションやバッテリーなどはキャビン下へ配置することも可能になるでしょう。一方、航続距離を確保するため電池の重量・容積を確保する必要があり、車内のレイアウトは大きく変化します。電池による重量増自体も新たなNVHの要因になります。これらはガソリンエンジンを搭載した自動車とは異なる新たなNVHへの対策が必要になることを意味するのです。

●モーターから発生するノイズの顕在化

ガソリンエンジンを搭載した自動車にもさまざまな電気部品は使用されており、少なからず電気的なノイズは発生していました。ただし、EVに比べるとガソリン車のノイズはそれほど多くなく、むしろガソリンエンジンから発生する騒音や振動によって隠されていたとも言えます。

しかし、EVでは駆動系をはじめとしてさまざまなメカトロ系にも電動モーターの搭載数が増加しており、これまでエンジン音で隠されていたノイズが顕在化する可能性があるのです。

具体的には、ギアボックスやシートスライダ、テールゲートなど、多くの車両機能が電動化されると車内のモーターノイズも増えていくことから、ハイブリッド車やEVへの移行にともない、電動モーターから発生するNVHの低減に注力しなければなりません。

●自動運転を見据えた車内環境の変化

EVだけではなく、自動運転も近い将来普及していくことが予想されています。完全自動運転が実用化されると、運転席や助手席といった概念すらもなくなり、回転シートやリクライニングといったシート調整・レイアウトの選択肢が大幅に増加することになるでしょう。電動シートはもちろんのこと、自動開閉ドアシステムのようなメカトロニクスも増えていくと、EVよりもさらに電気的なノイズが生じる可能性が出てきます。

さらに、近い将来、自動運転技術が完全に実用化された状況では、搭乗者にはより一層快適な車内環境が望まれ、求められる対策のレベルも一段と向上すると考えられます。

その結果、駆動するモーターにはNVH対策として円滑な動作を助ける低摩擦部品などの需要が高まることも考えられます。

●高機能素材の採用

従来のNVH対策は、遮音・吸音対策としてアスファルトシートやフェルト材などが広く利用されてきました。しかし、今後は車体重量の軽量化やスペース確保の観点から、より高機能な素材のニーズが増加していくと予想されます。同時に、EV化によって新たに発現するNVHへの対策素材のニーズにも対応していく必要があるでしょう。 例えば、電動モーター化による騒音対策としては、従来のロードノイズや車外騒音に加え、モーター特有の周波数帯や対策箇所に特化した素材が求められるようになります。 また、車内に影響するNVHに加え、運転時における車外への騒音も大きな課題となっています。日本の車外騒音規制は今後強化される見込みであり、特にスポーツカーなどでは早急な対策が求められます。 NVH対策のハードルは年々高まっており、これらを解決するためには一つのソリューションでは難しくなっている現状があることから、高機能素材を組み合わせ適材適所で活用していかなければなりません。

MCGの素材技術を活かしたNVH対策部材

MCGではNVH対策に役立つさまざまな部材を開発しています。各部材の概要と適用用途の例もあわせてご紹介しましょう。

HUSHLLOY®(ハッシュロイ)

HUSHLLOY®(ハッシュロイ)」はプラスチック部品から生じる“きしみ音”を低減するNVH対策部材です。きしみ音はプラスチック部材同士の摩擦によって発生することが多く、CAE(Computer Aided Engineering)シミュレーションなどを行っても事前に発生を予測することが困難です。

従来のNVH対策としては、プラスチック部材の嵌合部へグリスの塗布や不織布が貼付されることが一般的でしたが、手作業のため工数やコストがかかり、施工品質によってはきしみ音が発生するリスクもありました。

「HUSHLLOY®(ハッシュロイ)」を採用することでNVH対策の工数が削減でき、施工ミスによる不良発生のリスクやグリス・不織布の老朽化によるきしみ音の発生も抑止できます。日用品や精密機器など幅広い用途に活用される「HUSHLLOY®(ハッシュロイ)」ですが、自動車のNVH対策としてはインジケーターやエアコンリテーナー、カップホルダー、メーターハウジングといった内装部材に用いられています。

音響メタマテリアル遮音・制振シート Reso-Core™(レゾコア)

自動車の走行中に生じる騒音は、EVのモーター音のような高い周波数帯のものもあれば、タイヤと路面の摩擦によって生じるロードノイズのように低い周波数帯のものもあります。しかし、一般的に用いられるフェルト素材の吸音材だけでは低周波帯域の騒音を低減することは難しく、アスファルトシートなどの密度の高い材料を併せて用いざるを得ないという課題がありました。

Reso-Core™(レゾコア)」は、共振周波数を用いて優れた遮音効果を発揮する音響メタマテリアル技術を応用したNVH対策部材です。金属錘とゴムの局所共振器がシート上に設置された「Type-A」と、オール樹脂の透明シート「Type-B」の2タイプが選択できます。振動源となる部品の要所にシートを貼りつけることで、従来の吸音材のみでは難しかった100Hz以下の低周波帯域の遮音を、重量を増加させることなく実現します。

「Reso-Core™(レゾコア)」は独自のシミュレーション技術を駆使し、お客様の要望にマッチしたシート設計が可能です。これにより内装材から駆動系まで幅広く活用でき、例えば電動パワートレイン系から生じる騒音や振動の低減にも役立ちます。

HUSHLLOY®(ハッシュロイ)
HUSHLLOY®(ハッシュロイ)
音響メタマテリアル遮音・制振シート Reso-Core™(レゾコア)
音響メタマテリアル遮音・制振シート Reso-Core™(レゾコア)
Reso-Core™の制振効果の一例
Reso-Core™の制振効果の一例

SymaLITE® 軽量強化熱可塑性プラスチック

アンダーシールドやエンジンカバー、ギアボックスカバーなどには耐久性と寸法安定性に優れたプラスチック素材が求められますが、それと同時にNVH対策として吸音性も付与しなければなりません。

SymaLITE® 軽量強化熱可塑性プラスチック」は軽量性と耐久性、寸法安定性を両立したプラスチック素材であり、素材の内部には連続気泡があるため優れた吸音性も実現しています。また、さまざまな表面材を貼り合せられることから一体成形が可能で工数の削減にもつながります。NVH対策としては上記で紹介した用途だけでなく、自動車の天井材やトレーラーハウスなどにも用いられます。

新規アセチル系ポリマー(開発品)

新規アセチル系ポリマーは酢酸ビニルモノマーを原料とするゴムライクな物性を持ち、現行材料へさまざまな機能を付与することが期待できます。

摩擦抵抗の低減を示し滑らかな触感を持ち、優れた耐溶剤性を示すなどの特性から、アシストグリップやアームレスト表皮などへの展開を進めるとともに、常温付近で高い粘弾性を持つ特性から現在は振動制御といったNVH対策に貢献するさまざまな分野での用途開発が行われています。

積層用熱可塑性エラストマーフィルム アートプライ® CF

走行時の振動や突き上げ感を軽減するために、従来はアスファルトシートを自動車のフロアに施工するといった方法が一般的でしたが、車体重量が増加するといった問題も抱えていました。

積層用熱可塑性エラストマーフィルム アートプライ® CF」は、わずか0.2mmという厚さのフィルム状のNVH対策部材であり、各種金属やCFRPなどの軽量高剛性樹脂材の間に積層して使用することにより振動減衰特性を付与できます。

アスファルトシートに比べて大幅な軽量化が実現でき、接着剤不要で熱プレスによって積層可能なため施工に手間がかかりません。また、制振性だけでなく耐衝撃性も有しているため、自動車のフロアに施工することで突き上げ感の低減にもつながります。

SymaLITE® 軽量強化熱可塑性プラスチック / 新規アセチル系ポリマー(開発品)
SymaLITE® 軽量強化熱可塑性プラスチック           新規アセチル系ポリマー(開発品)
積層用熱可塑性エラストマーフィルム アートプライ® CF
積層用熱可塑性エラストマーフィルム アートプライ® CF
アルミ板に積層したアートプライ® CFのハンマリング試験
アルミ板に積層したアートプライ® CFのハンマリング試験

自動車の居住性・快適性向上のカギを握るNVH対策

Noise(騒音)・Vibration(振動)・Harshness(ハーシュネス)の3つを示すNVHは、自動車の居住性や快適性を向上するために重要なカギを握る要素です。

ガソリンエンジンを搭載した従来の自動車開発においても自動車メーカー各社はNVH対策を講じてきましたが、今後、ガソリンエンジンからEVへとシフトし、さらに自動運転なども実用化されていくと従来とは異なる新たなNVH対策が求められるようになるでしょう。

次世代のNVH対策を実現するためには、これまで用いられてきた素材や部材に加えて、従来抱えていた課題や問題を解決する三菱ケミカルグループが提供する高機能素材のニーズも高まってくるはずです。

三菱ケミカルグループは、高度な素材技術によって今後到来する次世代の自動車開発におけるさまざまな課題解決に取り組んでまいります。

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