「CASE」の意味・読み方
「CASE」とは、「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアリング/サービス)」「Electric(電動化)」の頭文字からなる造語で、「ケース」と読みます。まずは、それぞれの用語について解説します。
自動車のIoTを実現する 「C」=Connected(コネクテッド)
「Connected(コネクテッド)」とは、自動車にさまざまな通信機器やセンサーを搭載し、インターネットで外部の機器やサービスと「つながる」ことを指します。自動車が、「走るIoT端末」となることで、走行時の車両の状態や道路状況の送受信、故障や交通事故発生時の自動通報、盗難時の車両追跡、加えてエンターテインメント情報へのアクセスなどが可能になります。高速・大容量・低遅延の高度な通信技術で「つながる」ことは、自動運転の実現に不可欠な技術基盤です。
段階的に自動運転を実現「A」=Autonomous(自動運転)
自動運転技術はその自動化の度合いに応じて、以下のように「運転自動化・運転支援なし」のレベル0から、「運転支援」のレベル1/レベル2、「完全自動運転」のレベル5まで分類されています。
※国土交通省資料をもとに作成
2021年3月には、本田技研工業がレベル3の自動運転可能な自動車を販売。高速道路など特定の条件下のみではありますが、すべての運転操作をシステムに任せられる自動車がすでに市販されています。
所有から共有へ「S」=Shared & Services(シェアリング/サービス)
CASEの「S」はShared & Services(シェアリング/サービス)で、車両を共同所有・利用する「カーシェアリング」や、一般のドライバーの自動車に他者が同乗(相乗り)してガソリン代などを負担しながら移動手段として利用する「ライドシェアリング」などを指します。
カーシェアリングの利用は日本でも拡大しており、公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団の2021年3月時点の調査(※1)では、カーシェアリング車両ステーション数は1万9346カ所、車両台数は4万3460台、会員数は224万5156人にのぼっています。一方、ライドシェアは法律の壁もあり、日本ではそれほど普及に至っていないのが実状ですが、すでに海外では広く活用されています。
※1 公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団「わが国のカーシェアリング車両台数と会員数の推移」
電気自動車を支える「E」=Electric(電動化)
自動車の電動化を指します。地球環境問題への対応が後押しとなって、電気エネルギーでモーター走行する電気自動車(EV)への移行は世界各国で進んでいます。
日本ではガソリンエンジンとモーターを組み合わせたハイブリッド車が人気ですが、2022年1月開催の「CES 2022」ではソニーが電気自動車への参入を発表するなど、市場環境も変化。自動車メーカー各社は電気自動車の開発に一層注力する姿勢を示しています。
「C」「A」「E」の進化が「S」実現の基盤となる
「CASE」が注目されるようになったきっかけは、2016年9月に開催された「パリモーターショー2016」。ダイムラーが中長期戦略の柱として「CASE」を打ち出したことに端を発しています。
この発表において、ダイムラーAG取締役会会長兼メルセデス・ベンツ・カーズ統括(当時)のディーター・ツェッチェ氏は、これら4つの技術トレンドをインテリジェントにつなげることで自動車の価値に革新的な変化がもたらされることを示しました。
「CASE」が注目される理由
CASEが注目される背景には、自動車業界を取り巻く、以下のような環境変化があります。
気候変動対策として行われる環境規制(化石燃料を使わない脱炭素化、二酸化炭素排出量の削減など)
少子化・高齢化の加速
若年層の購買力低下
高齢者の交通事故対策の必要性増加
経済の不安定化、格差問題、「所有から利用へ」を促す価値観の変化
特に気候変動対策は地球規模で喫緊の課題であり、ガソリン車やディーゼル車の販売を規制する動きが世界的に加速するなど、自動車業界に大きな影響をおよぼしています。
「CASE」の実現に向けた自動車メーカーや部品メーカーの取り組み
こうした状況の中、「CASE」を実現するハードウェア・ソフトウェアの開発には、AIやIoT、自動運転など、さまざまな分野における最先端の研究開発が欠かせません。ただし、さまざまな分野にまたがる最先端の研究開発は自動車メーカーが単独で取り組めるものではなく、ICTやAI技術などを持つ企業との連携が求められます。
トヨタ自動車とソフトバンクが合弁会社を設立し、モビリティイノベーションの実現を目指す業界横断的組織として「MONETコンソーシアム」を立ち上げたことや、日産自動車とルノーがアルファベット(グーグルの持ち株会社)傘下のウェイモが展開する無人自動運転車サービスの開発について独占契約を締結したことなどはその一例です。
国や・業界、メーカーの枠を超えて多種多様な連携が進んでおり、この流れは今後も加速すると見られています。
自動車部品メーカーや素材メーカーの動き
一方で、自動車部品メーカーや素材メーカーには、「CASE」を実現するための技術開発が求められています。具体的には、コネクテッド(C)や自動運転(A)の実現に不可欠な高速・大容量通信のための電磁波除去やセンサー精度の向上、電動化(E)に向けたバッテリーやモーターなどパワーモジュールの高容量・高出力化や熱対策などにおける新たな技術開発です。
三菱ケミカルグループでは、これらの課題のソリューションとして各種素材をラインナップしています。例えば、コネクテッド(C)や自動運転(A)の実現においては、目の前の障害物を正確に確認し避けるためにセンサーの精度向上が不可欠です。三菱ケミカルグループの三菱エンジニアリングプラスチックスでは、「波長選択/熱線吸収ポリカーボネート」を開発。ノイズとなる波長をカットし赤外光のみを透過/または赤外光のみをカットすることで、光学センサーの精度を高め、障害物の正確な把握を可能にします。
自動運転(A)に必須な車載レーダーのノイズ除去対策では、「電磁波吸収ポリブチレンテレフタレート系樹脂」を開発。従来のEMCに用いていたアルミダイキャストを樹脂で代替することで約55%の軽量化を実現。電磁波ノイズの抑制、車載レーダーの感度向上、軽量化、設計性向上を実現します。
また、外部との通信で重要な役割を果たすアンテナ向けには「LDS対応ポリカーボネート、高性能ポリアミド材料」をラインナップ。LPKF社のLDS技術に対応し、樹脂成形品上にメッキで三次元回路を形成できるのが特徴で、アンテナの小型・軽量化を実現します。
さらに、三菱ケミカルグループのMCCアドバンスドモールディングスでは、自動車の車体に塗装することで各種センサーに利用されるミリ波を透過させ、センサー機能を効率よく機能させる特殊金属調塗装の技術を活用した「ミラー塗装による金属調外観成形品」も提供しています。
一方、三菱ケミカルでは、電動化(E)の実現に不可欠なパワーモジュールの熱対策として「xEV用パワーモジュール向け高放熱絶縁樹脂シート」を開発。これは独自開発のBNフィラーを配合した樹脂シートで、窒化シリコン基板と同等の高い放熱性と絶縁性を実現。モジュール構造を簡素化できるので、パワーモジュールの小型・軽量化を実現します。
「CASE」の実現を支えるのは高機能な素材
CASEを理解する上で大切なことは、コネクテッド(C)・自動運転(A)・シェアリング/サービス(S)・電動化(E)の4つの技術トレンドが相互に作用し合っていることです。コネクテッド(C)・自動運転(A)・電動化(E)の技術進化が自動車の多様な活用を可能にし、その結果、安全で利便性の高いモビリティサービス(S)を生み出す基盤となります。
例えば、過疎地域に環境に配慮した電気自動車による自動運転のコミュニティバスや移動コンビニといったモビリティサービスが実現されれば、自動車は単なる移動交通の手段ではなく、人々の暮らしを支える新たな価値を伴ったインフラとなるでしょう。こうした変革を可能にする技術トレンドがCASEです。
そして、「CASE」の実現には、技術進化だけでなく、それを支える高機能な素材の開発が重要な役割を果たしています。今後もCASEの実現に向けた動きはますます加速していくと考えられます。そうした中で、自動車メーカーや自動部品メーカーにとっては、「素材選び」の重要性がますます高まっていくと考えられます。