くるま素材
マガジン vol.4

2022/09/29

環境にやさしい車づくりとはなにか?素材開発が支える「環境にやさしい車」づくり

環境にやさしい車
EV(電気自動車)
HV(ハイブリッド車)
PHV(プラグインハイブリッド車)
FCV(燃料電池車)
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日本政府は2020年に発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の中で、「遅くとも2030年代半ばまでに、乗用車新車販売で電動車100%を実現できるよう包括的な措置を講じる」としています。ガソリン車から「環境にやさしい車」へのシフトが急ピッチで進む中、本記事では、「環境にやさしい車」づくりを支える素材開発の重要性について解説します。

「環境にやさしい車」とは

脱炭素やカーボンニュートラルへの取り組みが急務とされるなか、車にも環境への配慮が求められています。「環境にやさしい車」とは、車の走行中はもちろん、車を製造する工程でもCO₂排出量を抑え、さらにはリサイクル部品やリサイクル可能な素材など環境負荷を低減した素材を使い、製品寿命の長い自動車部品を使用するなど、製造から使用、廃棄(廃車)までのライフサイクルにおいて環境負荷をできる限り低減した車のこと。おもに次のような特徴を備えています。

  • 排出ガス量が少ない

  • 化石燃料をなるべく使わない

  • リサイクル部品を使う

  • リサイクル素材、非枯渇原料由来材料といった環境負荷低減素材を利用する

このうち、ガソリンなどの化石燃料をなるべく使わないという視点では、自動車の軽量化に加え、新たなパワートレインとして、EV(電気自動車)やHV(ハイブリッド車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、FCV(燃料電池車)などの種類があります。

軽量化技術に関しては、くるま素材マガジンVol.1をご参照ください。

EV(電気自動車)

EV(Electric Vehicle:電気自動車)とは、車載の蓄電池(バッテリー)から供給される電力でモーターを駆動する車です。走行時にはCO₂を含む排気ガスを排出しないことから「環境にやさしい車」として注目されています。電気代が比較的安い夜間電力を活用して充電すれば、ランニングコストを抑えることもできます。

HV(ハイブリッド車)

HV(Hybrid Vehicle:ハイブリッド車は、ガソリンで駆動するエンジンと蓄電池(バッテリー)で駆動するモーターの両方を動力としている車です。EVのように外部電源からの充電は不要で、走行中に蓄電池(バッテリー)に充電します。走行状況に応じてガソリンエンジン、蓄電池(バッテリー)、または両方を使用することで低燃費を実現し、走行中のCO₂排出量を抑えています。

PHV(プラグインハイブリッド車)

PHV(Plug-in Hybrid Vehicle:プラグインハイブリッド車)は、ガソリン駆動のエンジンと外部電源から充電可能な蓄電池(バッテリー)で駆動するモーターの両方を動力とする車です。停電などの緊急時には家電製品などの電源として使うこともできます。蓄電池(バッテリー)の容量がなくなるまではガソリンを一切使用せず電気のみで走行できるほか、蓄電池(バッテリー)の容量が低下してきたときにはHVとして走行することも可能です。

FCV(燃料電池車)

FCV(Fuel Cell Vehicle:燃料電池車)とは、ガソリンや電気ではなく水素をエネルギーとしています。水素と酸素が化学反応を起こすとエネルギーが発生しますが、これを電力に変換して走ります。走行時にCO₂をはじめとした温室効果ガスを発生させず、水のみが排出されるため環境への負荷を大幅に低減できます。

これらの車の詳細な説明は、くるま素材マガジンVol.2を参照してください。

こうした「環境にやさしい車」による環境負荷低減効果をより大きくするために、電力そのものをカーボンニュートラルに調達する取り組みや、再生可能燃料(バイオ燃料やe-Fuelなど)を使用できるようにする環境改善技術の開発も進められています。

「環境にやさしい車」づくりの鍵を握る「素材開発」

ここまで、ガソリンなどの化石燃料をなるべく使わずにCO₂の排出量を抑えるという視点で、「環境にやさしい車」を説明しました。

次に、車が製造され、使用され、廃棄されてリサイクルされるまでのライフサイクルを考慮して「環境にやさしい車」を考えてみます。それには、製造からリサイクルまでの全工程で環境負荷の少ない素材、および、製造技術が採用されているかどうかが重要なポイントです。

環境にやさしい素材で作ることの重要性

環境省では、車に限らずさまざまなモノを製造するときの原材料調達から製造・物流・販売・廃棄といった一連の流れ全体から発生する温室効果ガス排出量を「サプライチェーン排出量」としています。サプライチェーン排出量とは、自社の事業活動での排出量だけでなく、原材料調達などの「上流工程」、製品の使用や廃棄などの「下流工程」を含めた、事業活動に関係するあらゆるCO₂排出を合計した排出量です。

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サプライチェーン排出量は、Scope1排出量+Scope2排出量+Scope3排出量で算出される

出典:環境省ホームページ(https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/supply_chain.html

環境省のサプライチェーン排出量において、素材や製造技術がCO₂排出量の抑制に貢献するのは、主に上記の図の「Scope3:上流」の原材料の調達と、「Scope3:下流」の製品の使用や廃棄の段階です。「Scope3:上流」の段階では原材料としてリサイクル可能なバイオ素材をはじめ低CO₂素材を活用する取り組みが、「Scope3:下流」の段階ではプラスチック部品の採用による軽量化で走行時のCO₂排出量を抑えるといった取り組みが進められています。

三菱ケミカルグループでは、従来から追及しているプラスチックによる自動車部品の軽量化に加え、電池の高性能化、バイオ素材やリサイクル可能な素材を使用することで、2030年までにライフサイクルCO₂排出量を現状のBEVと比べて約15%削減できると試算しました。(参照:三菱ケミカル「カーボンニュートラル達成に向けた方針」)しかも、「燃料タンクに入れるまで、あるいは電気を発電して蓄電池(バッテリー)に貯めるまでに排出するCO₂」(Well to Tank)も大幅に削減できると期待されています。

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このように、「環境にやさしい車」の開発・製造において、製造段階から廃車となったときのリサイクルまでを視野に入れ、再利用しやすい素材を選ぶことが重要です。

三菱ケミカルグループでは、テールランプレンズなどに用いられるアクリル樹脂(PMMA:ポリメチルメタクリレート)のケミカルリサイクルの事業化に取り組んでいるほか、ペットボトルに使用されるPET樹脂や光ディスクに使用されるPC樹脂をリサイクルして製造される「ポストコンシューマーリサイクル材を用いたPC/PET材」、ポストコンシューマーリサイクル材を25%~50%以上含有した環境にやさしいPBT系樹脂「ノバデュラン™ CEシリーズ」を開発し、自動車部品への利用を進めています。

これら以外の将来技術として三菱ケミカルでは、廃プラスチックのケミカルリサイクルによる各種のプラスチックの原料となるナフサの製造、炭素繊維複合材料のリサイクルなどにも取り組んでいます。

一方、リサイクルという視点だけでなく、環境にやさしいバイオ由来の素材を積極的に活用するという視点も大切です。

例えば、三菱ケミカルグループが開発したバイオ由来の素材である高機能エンジニアリングプラスチック「DURABIO™」は、植物由来原料を使用したポリマーでありながら耐久性に優れており、自動車のピラーやフロントグリルをはじめ、内外装材などに幅広く利用されています。

また、植物由来ポリカーボネートジオール(PCD)の「BENEBiOL™」は最大92%のバイオ化度を誇る、「植物由来・高機能なポリウレタン原料」です。柔らかな手触りの人工・合成皮革として自動車シートをはじめ、インストルメントパネルやコンソールのソフトフィール塗料などへの展開が期待されています。環境負荷の低い素材としてだけでなく、今までにない特性を有し、さまざまな自動車部品の製造・開発におけるカーボンニュートラルに貢献します。

車づくりの全工程で「環境にやさしく」

さらに、環境にやさしい車の開発・製造では、製造工程で排出されるCO₂を抑制し、素材自体ではなく、部品製造時の環境負荷を低減することも有効な方法です。三菱ケミカルグループでは、素材開発を通じてそれを支援しています。

リサイクル性を有する機能選択型熱可塑性複合材GMT」は、優れた加工性と機能性を実現しており、樹脂部品として一体化することによって部品点数を削減し組み立ての工程を簡略化できます。先に紹介した高機能エンジニアリングプラスチック「DURABIO™」は、着色による発色性が良く、また、傷がつきにくいという特性もあり原着自動車部品の実用化が広がっています。塗装などの二次加工を省くことができるようになり、製造時のCO₂削減に貢献します。加えて、VOCの発生という環境問題にも対応できます。

また、自動車の内装に意匠を施すときにも「TOM成形用加飾フィルム」を用いることで従来の加飾シートのような粘着加工・剥離フィルムが不要となります。基材へ直接デジタル印刷することでラミネート加工のみで作成でき、製造工数を削減できます。このように、三菱ケミカルグループでは素材開発を通じて、樹脂部品との一体化による部品点数削減、塗装レスによる工程削減、軽量化による燃費向上などを実現し、環境にやさしい車づくりに貢献しています。

急ピッチで進む「環境にやさしい車」への対応

政府は、2030年代半ばまでに新車販売の100%を電動車へ移行することを目標として掲げています。そのような時代の流れのなかで、三菱ケミカルグループでは、さらなる環境性能の向上や廃車後のリサイクルが可能な素材・技術の開発を進めています。

電動化技術に関しては、今回紹介した素材以外にも、リチウムイオン二次電池用の「負極材 MPG(天然黒鉛系)/ICG(人造黒鉛系)」や「電解液 ソルライト®」などの素材で電池の性能向上・長寿命化へ貢献しています。こうした取り組みで、三菱ケミカルグループは「環境にやさしい車」づくりを支えていきます。

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