くるま素材
マガジン vol.8

2023/09/12

「つながるクルマ社会」を実現する コネクテッドカーに不可欠な素材技術

コネクテッドカー
OTA(Over the Air)
POF(Plastic Optical Fiber:プラスチック光ファイバー)
Laser Direct Structuring(LDS)
電磁波吸収機能材料
電磁波透過機能材料
電子回路用機能材料
モスマイト™
ノバデュラン™
10 コネクテッドカー_キービジュアル
さまざまなモノがインターネットにつながる今、自動車も例外ではありません。自動車がインターネットや車外のネットワークとつながるコネクテッドカーの本格的な実用化により、例えば、遠隔制御できる自動運転車による公共交通サービスなど、これまでにはなかった自動車の可能性が広がっています。また、無線通信技術で車載ソフトウェアを(自動)更新して安全性を高めたり、エンターテインメント機能を向上させたりするOTA(Over the Air)の急速な普及で今後、コネクテッドカーのさらなる進化も期待されています。ここでは、「つながるクルマ社会」を実現するコネクテッドカーの開発で重視されるポイント、それを支える三菱ケミカルグループ(以下MCG)の素材技術について解説します。

コネクテッドカーとは?

コネクテッドカーとは、ICT端末としての機能を持つ自動車のことを指します。「コネクテッド(connected)=接続された」という言葉の通り、車外のさまざまなシステムや機器などと無線通信でつながり、車両に搭載された各種センサーや車載機器で収集した走行中の状態、周囲の道路状況、位置情報などのデータをネットワーク経由で送受信する機能を備えています。

コネクテッドカーの中には事故が発生したとき自動的に110番や119番へ緊急通報を行うシステムが搭載されている車や、走行実績に応じて保険料が変動するテレマティクス保険に対応した車、車両が盗難に遭った際にGPSによって現在位置を追跡するシステムを搭載した車もあり、徐々に普及しつつあります。

今後、コネクテッドカーに必須な通信技術やセンシング技術、膨大なデータを収集・解析するコンピューティング技術といったテクノロジーがさらに進化していくことで、例えば、遠隔操作・制御に対応した自動運転車による公共交通システムの実現など、従来の車ではできなかったモビリティサービスを提供できるようになると考えられています。

コネクテッドカーの開発で重視されるポイント

それでは、新たなモビリティ社会の実現に向けて、コネクテッドカーにはどういったテクノロジーが求められるのでしょうか。開発にあたって重視される2つのポイントを紹介します。

1. 安定・低遅延な大容量データ通信技術と高速な車載LAN

コネクテッドカーは、いわば「走るICT端末」といえます。各種センサーや車載機器で収集したデータや車外から送られてくる膨大なデータを無線通信のネットワーク経由で安定的に遅延なく送受信できることが求められます。

また、コネクテッドカーによる自動運転車の実用化には、道路標識や歩行者の正確な認識、渋滞状況や道路状況などの把握、自分の運転操作データの収集と分析などに、さらに膨大な情報の処理が必要になります。センサーで衝突の危険性を察知したら、その情報が瞬時にブレーキに伝わるというように、データを制御装置やモーター、車載ユーザーインターフェースに素早く伝送するための高速で安定した車内ネットワーク(車載LAN)の実装も重要になります。

さらに、無線通信技術を活用して、コネクテッドカーのコンピューター制御システムや安全運転支援機能の更新プログラムなどを随時、バージョンアップしていくOTA(Over the Air)にも注目です。OTAにより安全性や快適性、エンターテインメント機能などが向上し、私たちの暮らしに新たな価値をもたらすことが期待されているのです。

こうしたことから、コネクテッドカーには、大容量のデータを安定的に遅延なく送受信する5Gや6Gといった次世代通信技術への対応、さらには膨大な情報を処理して車内の装置や機器に遅延なく伝える高速で安定した車内ネットワークを実現する通信技術への対応が求められています。

2. 視認性に優れ安全に操作できる車載ユーザーインターフェース

コネクテッドカーでは、さまざまな情報をドライバーや同乗者に正確に伝える機能も求められます。そのための重要なユーザーインターフェースとなるのが、タッチパネル式のディスプレイ装置などです。現在、多くの自動車にはカーナビが搭載されていますが、コネクテッドカーでは多くの情報をドライバーや同乗者へ伝える必要があるため、より視認性に優れたディスプレイが求められています。同時に直感的な操作でさまざまな機能を利用できるように、わかりやすく操作しやすいヒューマンマシンインタフェース(HMI)の開発と実装も重要です。

さらに、コネクテッドカーではインターネット経由で音楽や動画などさまざまなエンターテインメントコンテンツを楽しめる機能も搭載されます。ドライバーや同乗者とコネクテッドカーとをつなげる車載ディスプレイなどのユーザーインターフェースには、優れた視認性や操作性を実現するための素材や技術、部品の開発が求められているのです。

コネクテッドカーを支える素材技術

コネクテッドカーには、大容量データを送受信できる通信技術、高速な車内ネットワーク、視認性や操作性に優れたユーザーインターフェースなどの開発と実装が求められます。MCGでは、こうしたコネクテッドカーに必須な技術や部品、機器を高機能な素材技術で支えています。

通信技術に対応する素材技術

コネクテッドカーにおいて安定的な通信を確保するためには、車内および車外ネットワークの進化に対応できる技術と高機能素材が欠かせません。

①車内ネットワークに対応する素材技術

各種センサーで取得した大容量データなどを制御装置やモーター、車載ユーザーインターフェースに素早く伝送するために欠かせないのが車内ネットワークです。大容量のデータを高速に安定的に送受信できる車内ネットワークを構築するには、電磁波ノイズに強く電気絶縁性にも優れ、ギガビット(Gbps)クラスの高速通信が可能なPOF(Plastic Optical Fiber:プラスチック光ファイバー)が適しています。

MCGの「プラスチック光ファイバー エスカ®」は、ケーブル径が細く取り回しがしやすいため、車体の限られたスペースに配線・設置が可能です。また、製造工程でアセンブリ加工の工程を自動化できることから、STPケーブル(シールド対線)と比べて低コストであることも特長です。

②車外ネットワークに対応する素材

コネクテッドカーでは、GPSなどの測位システムや渋滞状況を計測するシステムなどからの情報を取得したり、遠隔操作で自動運転を実現したりするのに、安定・低遅延で大容量データを送受信できる車外ネットワークとの接続が重要となります。走行中に膨大なデータを安定的に送受信できるようにするには、高機能な車載アンテナが重要な役割を果たします。 MCGでは、車載アンテナ用の素材として「Laser Direct Structuring(LDS)三次元回路成形技術に適したエンプラ(PBT・PC)」を開発しました。樹脂成型品に直接3次元回路を形成できるのが特長で、小さな曲面や100μm以下の小型回路が形成でき、小型・軽量で高機能な車載アンテナが可能となります。

04 コネクテッドカー_NOVADURANTM RA-シリーズ
プラスチック光ファイバー エスカ®
03 コネクテッドカー_Laser Direct Structuring(LDS)三次元回路成形技術に適したエンプラ(PBT・PC)
Laser Direct Structuring(LDS)三次元回路成形技術に適したエンプラによるシャークフィンアンテナ試作品

コネクテッド部品の周辺材料技術

安心・安全なコネクテッドカーを実現するためには、各種センサーなどデータを収集したり送受信したりできる信頼性の高いコネクテッド部品のための、最適な材料を選択することが重要です。MCGでは、信頼性の高いコネクテッド部品を周辺材料技術で支えています。

③電磁波吸収機能材料

コネクテッドカーでは、ノイズの影響を受けない信頼性の高い通信の確保が不可欠です。ポイントは、電磁波の反射などによるノイズの影響を除去すること。MCGでは、PBT樹脂に電磁波吸収性能を付与したグレード「NOVADURANTM RA-シリーズ」を開発しました。電磁波吸収率を従来品の3倍以上に高め、電磁波反射率を3分の1以下に抑えた材料で、金属部材を用いることなく効率的に電磁波を遮蔽できるため、部品軽量化に貢献します。

また、炭素繊維と各種樹脂との複合材料「パイロフィルペレット」と、樹脂フィルムと金属の複合材「アルセット」を活用することで、樹脂成形品に高い電磁波シールド性を持たせることも可能です。

④電磁波透過機能材料

一方、各種センサーの開発では、特定の波長だけを透過させる機能を備えた材料の開発も求められています。MCGでは、特殊な金属調塗装技術により、ミリ波の透過が可能な金属調外観の部品の開発を可能としました。この技術はインジウム蒸着工法と比較して低価格での成形が可能なことが特長です。希少金属であるインジウムの採掘を抑制し、エネルギー消費の削減にも貢献します。

さらに、電磁波透過機能を有した材料としては、必要な波長域のみを選択的に透過することのできる特殊な透明プラスチック「DURABIO™」、「PMMA」、「PC」なども開発しています。これらを応用すれば、例えば、ノイズとなる波長をカットし、赤外光のみを透過することにより光学センサーの精度向上が期待できるでしょう。

11 コネクテッドカー_電磁波吸収
NOVADURANTM RA-シリーズ
コネクテッドカー_ミリ波透過可能な金属調塗装技術(銀色部分)
ミリ波透過可能な金属調塗装技術(銀色部分)
⑤電子回路用機能材料

各種センサーの筐体や外装、表面に使用する材料だけでなく、内部の電子回路に使用する素材技術もコネクテッド部品の品質向上に欠かせません。例えば、筐体内の無駄なスペースを削減し小型化を実現するために、「軟質エポキシフィルム」とよばれる素材を活用することでフレキシブルな電子基板を構成できます。

また、高速通信で使用される高周波帯は電波が減衰しやすい特性があることから、低誘電損失の素材開発が求められます。そこで、MCGでは高い誘電特性を備えた「低誘電損失フィルム」を開発し、ミリ波帯における伝送ロスを従来品と比較し約50%低減することにも成功しました。

HMIに優れたディスプレイに対応する素材技術

ユーザービリティに優れ使いやすいコネクテッドカーを実現するためには、車載ユーザーインターフェースであるディスプレイの品質も高めなければなりません。直感的に操作でき、視認性にも優れたヒューマンマシンインタフェース(HMI)を実現する技術や素材を紹介しましょう。

⑥ディスプレイの反射を防止する素材

強烈な直射日光が入ってくる車内では、ディスプレイに反射した光が運転の妨げになったり、視認性を損なったりすることもあります。このような問題を解決するために、MCGではモスアイ型反射防止フィルム 「モスマイト™を開発しました。

ナノメートルオーダーの微細な凹凸構造により優れた反射防止効果を実現します。現在でもカーナビやメーター用のパネルなどに採用されていますが、これをコネクテッドカー用のディスプレイに貼り付けることにより無反射に近いレベルで映り込みを防止できるでしょう。

⑦車内エンターテイメントのための大型化ディスプレイ技術

迫力のある車内エンタメを楽しむためには、一般的なカーナビよりもさらに大型のディスプレイが理想的といえます。しかし、ディスプレイを大型化するということは、重量も増え運動性能や燃費などに影響を与える問題がありました。そこで、MCGでは、透明樹脂製の「オーバーレイパネル」によりディスプレイの軽量化に貢献します。また、3次元形状など多様な市場ニーズにも対応できるほか、モスマイトのような機能性フィルムを内蔵し低反射も実現できます。

⑧次世代のユーザーインターフェース HUD技術や空間映像に対応した素材技術

HUD(ヘッドアップディスプレイ)や空間映像といった次世代のユーザーインターフェースを実現するうえで、それらを構成する光学系部品には高い寸法精度が求められます。 MCGの「ノバデュラン™ LXシリーズ」は、超低反りを実現した軽量化ポリブチレンテレフタレート系樹脂であり、HUD技術や空間映像はもちろんのこと、開口部の大きい大型のセンサー筐体部品などにも最適です。また、比剛性に優れることから、従来の金属部品からの代替で軽量化にも貢献します。

(画像仮)15 モスマイト™を適用したメーターディスプレイ(右半分)
モスマイト™を適用したメーターディスプレイ(右半分)
09 コネクテッドカー_ノバデュラン™ LXシリーズ
ノバデュラン™ LXシリーズ

三菱ケミカルグループは素材技術で「つながるクルマ社会」の実現に貢献

コネクテッドカーの本格的な実用化と普及は、MaaSや自動運転車に代表されるように自動車の新たな可能性を広げていきます。三菱ケミカルグループは、素材技術でコネクテッドカーの実用化に不可欠な技術や部品を支え、「つながるクルマ社会」の実現に貢献します。

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